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深海研究所 Part 9 アブラボウズ


第9話 アブラボウズ
30kgではまだ小型。大型は100kgを超す深海釣り最大級ターゲットは千尋の底から引き上げても腹を返さぬスーパータフネス。時に一時間にも及ぶ、脂ギッシュな巨大魚との手に汗握るビッグファイトが待っている。 近年スーパーディープジギングのビッグターゲットとしても注目されるが、本項では大型電動リールで最大級を狙う専門の釣り・アコウダイ(メヌケ)やベニアコウ船で混じる本種を狙う釣り・筆者提案ライトタックルの餌釣り3パターンを解説してゆく。


アブラボウズの釣場

専門の釣船が出る地域は限られるが、本項では「アコウダイ・メヌケ・ベニアコウ船で狙える」も含めて紹介。
は専門狙いの船がある釣場。

ヘビータックル
岩手県大槌沖
福島県小名浜沖 
茨城県平潟沖 
千葉県銚子沖~片貝沖
千葉県白浜沖
千葉県洲ノ崎沖
東京都大島沖
神奈川県城ヶ島沖
神奈川県相模海丘(大磯沖など)
神奈川県真鶴沖
静岡県熱海沖~富戸沖
静岡県石廊崎沖 
静岡県浜名湖沖
愛知県 大山沖
三重県大王崎沖
和歌山県串本沖~白浜沖

ライトタックル
茨城県平潟沖
静岡県富戸~八幡野沖 


タックルと仕掛

ヘビータックルの専門狙い
2021年現在、アブラボウズ専門の乗合船は福島県小名浜、茨城県平潟、静岡県弓ヶ浜の3箇所(3軒)で行われている。水深は500~600mがメイン。

ロッド

大型錘+ギミック類使用でも的確に底を叩きベイトを躍らせるアクション、スムーズに喰い込ませるトップと巨大アブラボウズのパワー&重量にヘタらないバットパワーを兼ね備えた錘負荷350~600号表示の2m程度、ヘビータックルアコウ・ベニアコウ対応の深海専用モデルがベストマッチ。仕掛スペックが泳がせ釣りに準ずる弓ヶ浜ではウインチ泳がせロッドの流用も有り。

アルファタックル適合モデル
ディープインパクト カイザーR
ディープオデッセイ モデルR
ディープインパクトTERUスタイル RT-Ⅱ
ウインチ泳がせ流用…ヘッドクォーターウインチバウト195

リール…高強度PE10~12号1,000m以上のキャパシティを持つ大型電動リール。ミヤエポックのコマンドZシリーズ9~15番、D社3000番。ヘビータックルの専門狙いでは24Vモデルが主流。

仕掛…
小名浜・平潟…胴突2本鈎

ハリス30号1.2~1.5m、幹糸50号3~4m、捨て糸は14号1.5m。鈎はムツ25~28号。錘は鉄製2kg。
仕掛上端にはヨリトリ器具。

弓ヶ浜…胴突1本鈎
ハリス40号3m、先糸60~80号4~5m、捨て糸は18号3~4.5m。鈎はムツ30号。錘は鉄製2kg。
先糸上部にゴムヨリトリ(5mmΦ以上)併用が船宿推奨。

集魚ギミック
発光体は極めて有効なギミック。水中灯はミヤエポック「フラッシュカプセルLED-DX夜光」もしくは「LED-S夜光」。空鈎の場合はヤマシタ「パニックベイトアコウL」やニッコー化成のイカゴロエキス配合「スーパータコベイト6インチ」を配す。ヤマシタ「マシュマロボールL」は2個で使用。タコベイト、深海バケのカラーとリンクさせる。鈎に一粒刺し通すニッコー化成「激臭匂い玉」は10Φのイカゴログローがお勧め。

深海バケ…筆者は紫が圧倒的実績を誇るが、橙、ピンク、濃緑へのアプローチも有り。2本鈎では下鈎紫、上鈎橙を基本とし状況に応じて差替える。

エサ…中型スルメイカ・ヤリイカの一杯掛け、大型スルメイカ半割りなどのビッグベイト。スルメイカ半割りは鮮度の良い生イカを現場でカットがベター。胴の先端部中央をチョン掛けする。平潟沖ではエキストラのホラアナゴ(深海アナゴ)を活餌で使用し大型の実績あり。

その他のギミック
サメ被害軽減装置 「海園」

サメやエイの電気感知器官であるロレンチニ瓶(ロレンチーニ器官)を電流で刺激し、回避行動を促す器具はこの釣りにも有効。詳細は後述「ワンポイント」にて。

磁石板
鈎数が少ないので必需品とは言えないが、2本鈎仕掛では短い物が有れば便利。

②ヘビータックルアコウ&ベニアコウ船での釣り
現状大型アブラボウズと対峙するメインのステージはヘビータックルアコウ&ベニアコウ船。
アコウ船では水深400~600m、ベニアコウでは1,000m前後での釣りとなる。
アコウダイ釣りでは下鈎をやや大型(or太軸)にする、ハリスを太く(20号~24号)する、大振りのエサを配す等してヒット&キャッチ率の向上を図る。ベニアコウ釣りでは基本仕掛&エサのままでも充分可能だが、ハリスを30号にする、イカ1杯掛けなどのビッグベイト使用も一手。

ロッド
ヘビータックルに準ずる、と言うよりもヘビータックルアコウ&ベニアコウ用ロッドをアブラボウズに流用しているのが本来。数百~1,000mの底を叩く先調子、ウネリに跳ねないしなやかさ、パワーと大負荷にヘタらないバットパワーを兼ね備える錘負荷350~600号表示の2m程度。

アルファタックル適合モデル
ディープインパクト カイザーR
ディープオデッセイ モデルR
ディープインパクトTERUスタイル RTⅡ
ディープインパクトTERUスタイルSⅡ(アコウダイ釣場)

リール…高強度PE10号1600m以上のキャパシティを持つ大型電動リール。ミヤエポックのコマンドZシリーズ9~15番、D社3000番。

仕掛…
アコウダイ釣場…アコウダイ仕掛の下鈎1~2本を鈎太軸ムツ22~25号、ハリス20号~24号とする。

ベニアコウ釣場…ベニアコウ仕掛(鈎ムツ25~28号・ハリス24号)で80~100kgの実績があり、敢えてハリスを太くする必要はないが「専用」を意識するなら30号とし、鈎数を6本程度に抑える。
何れの場合も仕掛上端にはミヤエポック「ヨリトリWベアリング」など大型のヨリトリ器具を配し、錘は船指定号数(400~600号、1.5~2kg。釣場や潮況でこれ以上の場合も)を使用。材質に指定がない場合は海底に残っても環境負担の少ない鉄製のフジワラ「ワンダーⅠ」を推奨する。 ※ただし「船宿指定の錘を使用する」という事も付け加えておきたい。

アルファタックル既成仕掛
DEEPMASTER深海仕掛 ベニアコウ8本枠付

集魚ギミック
水中灯… ミヤエポック「フラッシュカプセルLED-S夜光」を基本にアピール重視なら「LED-DX夜光」も。タコベイト、マシュマロボール、匂い玉はヘビータックルと同様。

深海バケ…カラーはヘビータックル同様。筆者はアコウ場ではフジッシャー毛鈎ムツ太地22~23号、ベニアコウ場ではムツ28号をセレクトする。

エサ…ヘビータックルに準じ、アコウ場では大振りのサバ短冊、サンマ半身、鮭皮、スルメイカ肝付ゲソの半割など。ベニアコウ場ではベニの基本エサである大型スルメイカの縦方向カット短冊(幅2cm・長さ20~25cm)でも40~100kg級が普通に釣られており「それで充分」とも言えるが、より「攻める」スタンスなら中型イカ一杯掛けやホラアナゴ一尾掛けを1~2本(もちろん全鈎でも構わないが)配すのもアリ。

その他のギミック
ヘビータックルに準ずる。磁石板は仕掛鈎数に合わせてセレクト。

③ライトタックル(&LTメヌケ船での釣り)
筆者がLTで初めてアブラボウズを狙ったのは95年8月の茨城県平潟沖。マダラ&メヌケ2本立ての後半戦、ミヤエポックCX5リールと24号ハリスで55kgキャッチのスマッシュヒットは当時の釣り総合誌「フィッシング」のカラーグラビアを飾り話題となるが、この時点では「それ以上」は踏み込まず。
本腰を入れるのはそれから10年後の05年5月。静岡県富戸沖でハリス10号のアカムツ仕掛で600mにアプローチし22㎏をキャッチ。その後船長と当時誰も釣らなかった600~700mを探査、10~30kgの「捕り頃サイズ」を深場アカムツのタックルで釣るスタイルを確立する。近年は同ポイントのアブラボウズが大型化の傾向(50~60kg級も出る)で、開拓当初より仕掛スペックをアップして臨む。

ロッド
基本性能はLTアコウダイ(&メヌケ)タックルに順ずるが、「遊び」としての釣趣を追及するのがLTアブラボウズの理念。自信のある向きはLTアコウロッドよりワンランクライトな「深場アカムツ」対応モデルでの挑戦も一興だ。

アルファタックル適合モデル
ディープインパクト カイザーG
ディープインパクトTERUスタイル RT0
深場アカムツ(250~300号錘)対応機種
ディープインパクトLight220
ディープインパクトTERUスタイル RT0

リール…高強度PE6~8号800~1,000mキャパシティの中型電動リール。ミヤエポックR800か5番、S社9000番、D社800~1200番。

仕掛… 専用は鈎数3本の胴突仕掛。ハリス16~18号を80cm~1m、幹糸24~30号1.8m。捨て糸は12号1m。鈎は太地ムツ22号。LTアコウ(メヌケ)仕掛流用なら下鈎1~2本を同スペックとする。仕掛上端にはミヤエポック「キャラマンリング1型」などの中型ヨリトリ器具を配し、錘は鉄製のフジワラ「ワンダーⅠ」300(~350)号。

集魚ギミック
水中灯…ミヤエポック「フラッシュカプセルLED-S夜光」。タコベイト、マシュマロボール、匂い玉はヘビータックルと同様。

深海バケ…藤井商会「フジッシャームツ毛鈎」太地ムツ22号。カラーセレクトはヘビータックルと同様だが、富戸沖LTでの筆者釣果は100%濃紫。

エサ…サバやソウダガツオを幅2cm・長さ25cmにカットしたビッグ短冊が実績大。因みに平潟沖の55kgはサンマの半身。

その他のギミック
ヘビータックルに準ずる。



実釣テクニック(ヘビータックル・LT共通)
エサ付けを済ませた仕掛は順序よく船縁に並べ、船長の合図で投入するが、この際、

  1. 仕掛の絡みや自らの足による幹糸部の踏み付け等がない事を確認。
  2. 錘を投げる場合は船縁から身を引き、仕掛から離れる。(鈎が衣服や手に掛る可能性あり)
  3. 仕掛全てが海中に入ってからクラッチをフリーにする。(フリーで投入するとヨリ取りの重量で道糸が先に出てオマツリ、投入のショックでバックラッシュの可能性がある為)。の3点。

仕掛が着底したら糸フケを完全に除き「底トントン」を設定。マメに底を取り直してアタリを待つ。アブラボウズのアタリは明確かつ独特で、他魚との識別は極めて容易。ウネリによる船の上下動で一定のリズムを刻んでいた竿先を一瞬止めた後に派手に叩き付け、一気に絞り込む。この際、20kg級でも20m以上ラインを引き出す事も。

同ポイントに何尾かが棲む事が多いがアブラボウズだが、一度に複数が鈎掛りしては後が面倒。アタリ後は船長に声を掛け、早々に巻き上げる。ドラグを効かせた中速で緩急付けず、が基本。大型になる程容易く海底から離れず、ともすれば「根掛り」を疑うがここが我慢のし所。アブラボウズは数十kgでも出刃一本で処理できるほど、骨が柔らかい。強引な巻上は口切れバラシに繋がり要注意。先ずはドラグやスピード設定を変えずに魚が底から離れるのを待つ。どうしても離れなければジワジワとドラグを締め、若しくは巻上速度をアップして引き剥がす。

超深海から釣り上げても腹を返す事は無い。随所で激しい抵抗を見せるが、特に水深の半分辺りで2度目の山場を迎えるケースが多い。派手な動きを見せるのは「体が軽い」20~30kg級。数十kgを超す老成魚では、底から離れると重量感先行、比較的静かに海面下まで上がる事もある。
何れにせよ、鈎が外れれば泳ぎ去るタフネス故、魚を見てから慌てる事が無い様に早めにギャフなど、取り込みの算段を整えておきたい。

電動巻上停止後「流れ」を断ち切らずに仕掛を手繰り寄せれば海面直下では多くの個体が比較的おとなしく、鬼カサゴ宜しく大口を開いて姿を見せる。
ここで魚を覚醒させてしまうと大暴れし取り込みが困難になるのでファーストギャフは重要。下顎のセンター、若しくは上顎の奥まで差し入れてガッチリと掛けた上で、セカンドギャフを打ち、数十kgの大物なら二人、三人掛りで船内に引き摺り上げる。
持参、または船のクーラーに納まるサイズは鰓の付根にナイフを入れて放血、海水氷で全体を冷やせば万全。クーラーに納まらない大物は船上で解体して半身やブロックをビニールに包み、氷詰めにして持ち帰る。

※本種の西京漬けや煮付けは筆者宅でも好評だが、10kg級の小型でも切身は数十枚取れる。これ以上のサイズは持ち帰るのも、食べるのも一苦労。大抵は船長にプレゼントし「油代の足し」にしてもらっている。

ヘビータックルアコウ・ベニアコウ船での釣り
何れの場合も仕掛スペックや付けエサが若干異なる程度ゆえ「本来のターゲット」の釣法で臨むのが大前提。

アコウ船の場合
仕掛の投入は基本的に掛枠を使用。船長の合図に従って舳先、又は艫から順に行う。掛枠を海面に対して45度位に構え、合図と共に真下にオモリを落とす。リールはクラッチを繋いでおき、仕掛が全て海中に入ってからスプールをフリーにする。バックラッシュやヨリ取り&水中灯の重さで道糸が先に出て仕掛と絡む「手前マツリ」を防ぐ工夫だ。投入にタイムロスが発生すると船がポイントから外れて最悪全員が空振りとなる可能性もある。故に合図までに準備が整わない、トラブルで仕掛が降りない時は一回休み。

錘が着底したら一度完全に底を離れるまで巻き上げて(竿先が大きく曲がってから戻る)糸フケを除き、再度着底させる。ここからウネリによる上下動で錘が海底をトントン叩く状態を設定すべく海況、釣座、ロッドアクションなどの条件を考慮して50cm~1m程度巻き上げる。その後もマメに底を取り直して底叩きを維持し、アタリを待つ。
アタリ後は錘を着底させ、テンションをキープしながら船の移動分道糸を送り続ける、若しくはアタリ毎に幹糸間隔分ずつ順次送り込む、が基本的操作だが、釣場や潮具合、船長の操船スタイルによっては「どんどん送り出す」「仕掛全体を一気に這わせる」「そのままキープ」など、様々。自分勝手な判断をせず、必ず船長に確認する事。

巻上も投入同様、船長の指示に従って順番、若しくは一斉が基本だが、明らかに大型のアブラボウズと判断できるアタリや引きの場合、早い段階で巻上に入っても良いかを確認し承諾されれば巻上に入る。以降の流れはヘビー&LTと同様だ。

ベニアコウ船の場合
水深1,000mでは一日4(~5)投が通常だが、神奈川県では一部短いスパンで7~8投する船も。
船長の合図に従い艫、若しくは舳先より順に投入する。掛枠での投入が基本で2組を交互で使用するとスムーズ。仕掛捌きに慣れていれば2投目以降は船縁に並べて、が可能な船もある。
何れの場合も仕掛が全て海中に入るまでリールはフリーにせず、クラッチを繋いでおく。これはヨリトリ器具等の重量で道糸が仕掛より先に海中に入って起こる手前マツリや投入終了時のバックラッシュを防止するためだ。仕掛が海中に入った時点でスプールをサミングしつつリールをフリーにし、バックラッシュに注意しながら海底まで錘を落とし込む。

着底後は高速巻きで糸フケを完全に除き、錘が海底から離れたらリールをフリーにして再度着底、1~2m程度底を切り、船の上下で錘が海底をトン、トンと叩く状態でアタリを待つ。
数十kgのアブラボウズはロッドを海面に突き刺し、少なくとも10m以上、ラインを引き出して行く。

アタリ後の操作は釣場により仕掛を立てたまま、潮が効いていなければラインを張り気味、効いているならやや弛み気味(錘を底に着ける)、錘を着底させ船の移動分ラインを送る等、ポイントや潮況より操作の指示は異なるため、その都度船長に確認する。
巻上げは船長指示に従い順番又は一斉が通常だが、船長に一声掛けて巻上可能の船もあり。以降の流れはアコウ船同様。


アブラボウズに役立つ!?ディープマスターのワンポイント

水深や釣場で使い分けるサメ被害軽減装置「海園」
2010年9月の平潟沖。メヌケポイントのLTアブラボウズで同乗者の40kg級が取込直前に巨大なサメに襲われ、一噛みで後半身消失のショッキングな場面に遭遇。当時「海園」があればこの被害を回避できた可能性は極めて大きい。
中~上層で起きるサメ禍(奪い喰い)対策には巻上開始時に「海園Ver.2」のカラビナを道糸にセット(引っ掛ける)して海中に投下する。もちろん最初からヨリトリ器具直下に「海園Ver.2イカ直結用」をセットしても良いが、千葉県片貝沖や伊豆大島乳ヶ先沖など「根掛り前提!?」の釣場では仕掛ロストやライン切れのリスクも低くない。製品コストも考慮した「巻上時セット」が得策だ。
逆に根掛りの少ない静岡県東伊豆のLTポイントでは海底でアプローチしてくる深海サメ(ユメザメ、モミジザメなど)の回避も踏まえて「海園Ver.2イカ直結用」を最初からヨリトリ器具直下に配す。
因みにベニアコウポイントで使用する場合は製品の耐水圧を踏まえ、巻上開始後残りライン700mを切った所で「海園Ver.2」を投入するのがお勧めだ。

ギャフが伸されてあわや大惨事!?
アブラボウズの取り込みは身切れや外れを回避すべく下顎センターや喉の奥(若しくは両方)にギャフを打って、が常道だが…2014年4月の静岡県富戸沖1,000m。1時間にも及ぶ攻防の末、海面下に現れたのは一瞬腰が引ける80kgのアブラボウズ。ヒット直後から大物と知れておりラスト100m時点でギャフ2本をセット、 船縁も外して取込準備は万端整えて臨む取込シーン。船長がメインのファーストギャフを口内に打ち、間髪入れず筆者がセカンドを下顎センターに貫通させてここまでは完璧な流れ。

「よし、やったぞ!」と勝利を宣言、掛け声諸共引きずり上げんとしたその瞬間。「うわっ!」の声と共に船長がフレームアウト、魚の全体重がズシッ!と筆者の腕と宜しくない腰に掛り冷や汗。ファーストギャフの先端だけが上顎に刺さった状態で大負荷が掛ったためギャフのフックが伸され、スッポ抜けて転倒したのだ。幸い船長に怪我は無く、こちらの腰も何とかセーフ。魚も取り込めたので「結果オーライ」だったが、一歩間違ったら大きな事故になっていたかも。以降船長共々「ギャフはアーチ迄確実に刺し通す」を肝に銘じて実践している。

パワー任せの強引な巻上NG。上唇だけが釣れた件

前出の船長が伊豆大島沖にアコウダイ狙いで出船した際の事。客の一人がアブラボウズを喰わせたがハリスが太いのをいい事にドラグギチギチの高速で巻上開始。 強引過ぎるヤリトリ!?を見かねた船長が「もう少しゆっくり巻かないとバレちゃうよ…」と言った途端にロッドからテンションが消えて、それ見た事か。
鈎がスッポ抜けたか、それともハリスが飛んだのかと客が回収した仕掛を見ると、何と鈎にアブラボウズの上唇だけが残っていた。掛り所も良くなかったのだろうが、巨体に似合わず!?骨や身の軟らかい本種との強引なやり取りは考え物。逆に適切なドラグ調整と巻上スピードで臨めば、画像の様に唇先端への鈎掛りでも大魚をキャッチする事が可能だ。


アブラボウズ料理
刺身ももちろん可能だが、生食は酢や漬けダレを活用し身肉に50%も含有する脂肪を「ある程度緩和する」
事でより食べ易く、同時に旨味も引き立つ。
鮨は第10話ベニアコウ料理で紹介する3種盛り(通常握り・漬け・炙り)に準ずるが、個人的には煮切り(醤油と味醂を同割で合せて火に掛け、沸騰直前に止めて冷ました物)に寿司ネタを10~15分浸して「漬け」にし、練り辛子に置き換えて握る「島鮨風」が一推し。握るのが面倒な向きには器に盛った酢飯に前出の「漬け」を乗せた「漬け丼」がお勧め。
「照り焼き」は漬け握りに使う煮切りに切り身を半日ほど漬け込み、焦がさないように焼き上げる。
「漬け物」は後述西京漬けの他、粕漬けや塩麹漬けも美味。

煮付け
材料:切り身、カマブツ切りなど/濃口醤油/味醂(又は日本酒)/砂糖/粗挽き黒胡椒
調理

  1. 醤油1:酒(又は味醂)4:砂糖1/3を合せて良く混ぜ、粗挽き黒胡椒を加えて強火で煮立てる。煮魚の汁には根生姜の薄切りを加えるのが一般的だが、脂の強い魚には粗挽き黒胡椒の相性が良くお勧め。味醂を使う場合は砂糖の量を減らすが、各調味料の割合はあくまで目安。魚の脂に弾かれない濃い目の煮汁を意識するが、最終的には各自の好みで調整する。煮汁は多目の方が焦げ付きなどの失敗が少ない。
  2. 汁が煮立ったら灰汁を掬い、魚を入れて煮る。
  3. アルミホイルで落し蓋をする。煮汁が上側まで回り、かつ吹き零れない様に火力を調整。灰汁を除きながら10分程煮る。調理時間は魚のサイズや形状により調整する。
  4. 崩さないように皿に盛付けて供する。


西京漬け
10kg級の「小型」でも30~40枚の切身が取れるアブラボウズ。保存食としても重宝な西京漬けは高級品として扱われる兄弟分ギンダラと遜色ない(よりも上の?)味覚を堪能できる。
材料:アブラボウズ切身/西京味噌/味醂/日本酒/塩
※添付画像はアコウダイ切身を使用した調理手順

調理

  1. 切身に軽く塩を振る。塩加減は脂の乗り具合で調整(乗りが良い物は気持ち強め)し、3時間冷蔵する。
  2. 西京味噌500gに酒・味醂各50ccを加えて練り上げ、味噌床を作る。
  3. 切身の水気を拭き取り、味噌床に漬け込む。直接漬け込んでも構わないが、味噌・ガーゼ・身・ガーゼ・味噌の順に挟んで漬け込めば味だけが染込み、焼く時に味噌を落とす手間が省ける。
  4. 2~3日で食べ頃。味噌床から取り出し(直漬けの場合は味噌を洗い落して水気を拭き取り)ラップに包んで冷凍すれば長期保存も可能。焦がさない様に中火で焼き上げる。

アブラボウズという魚

アブラボウズ

スズキ目ギンダラ科 Erilepis zonifer
国内の分布:北海道~熊野灘の太平洋沿岸、津軽海峡、兵庫県香住(稀)
水深300~1,000mのキンメダイ、アコウダイ、ベニアコウ釣りで姿を見せ、大型は100kg超。イシナギ、カンナギ(マハタ老成魚)と並ぶ深海釣り最大級のターゲット。水圧変化に対応し、海面に腹を返す事は無い。
関東ではクロウオ、若しくはクロイオの名が一般的。他に小田原周辺のオシツケ(女房言葉で「毒見」の隠語)、クロハタ(三崎周辺)、沖アイナメ又は沖アブラメ(東北)などの地方名が。 国内で唯一同科同属となる超メジャーな惣菜魚「ギンダラ」との識別は

  1. 本種の体は太短いが、ギンダラは細長い
  2. 本種は第一背鰭と第二背鰭が接近するが、ギンダラは広く離れる
  3. 本種の第一背鰭は12~14棘だが、ギンダラは17~30棘

稚魚は流れ藻など漂流物に付いて表層生活をする事が知られ、筆者も19年秋の岩手県釜石沖マダラ釣りの際に15cm程の個体を確認。若魚は体側に不規則な白色斑を多数有すが、成長とともに消滅する。 現在では各地の水族館で展示されるようになった本種だが、その「元祖」は北海道最古の水族館である市立室蘭水族館。国内で初めて本種の飼育に成功、シンボルフィッシュとする同館では1969年に浦河沖で採捕した5cmの稚魚を35年8ヶ月間飼育。1.5m・40kgまで成長させた。この魚は残念ながら04年に病死したが、もちろん国内最長のアブラボウズ飼育記録である。

水族館のデータを自然界にそのまま置き換える事はできないが、数十kg~100kgの大物は相応の年齢だろう。船上に横たわる巨魚は何十年、もしかしたら一世紀を生き抜いてきたかも知れない大先輩。敬意と感謝の念を忘れてはならない。

身には脂肪分を50%(普通の魚の10倍!)も含有。胃腸の弱い人が一時に大量に摂取すると、お腹が緩くなる可能性がある。この点を後述バラムツやアブラソコムツと混同した「取引禁止の毒魚」なる誤解説をいまだに見受けるが、バラムツ類の脂肪が人体で消化できないワックスなのに対し、本種の脂肪は食用に適したグリセライドで根本的に異なる物。

かつて「クエ」と詐称し販売した飲食店が摘発され話題となった本種だが神奈川県の小田原や三崎では古くから専門の漁が行われ、小田原周辺では生鮮や酢漬けを「オシツケ」、三崎では「マグロの粕漬け」等の加工品として流通してきた。

近年「標準和名」で売られる様になったのは食品名の表示が厳しくなった事に加え、千葉県銚子や静岡県伊豆の回転寿司店の新名物として「アブラボウズ(又はオシツケ)の握り」が旅&グルメ番組で度々取り上げられ、一般にも広くその名を知られたて市民権を得た事も大きい。これに伴い各地の市場で以前よりも高値で取引、10kg前後の小型が最も高値で浜値がkg当たり千数百円。数十kgの大型は扱い難さもあって値が下がるが、それでも800~千円近くになる。

※本項ではアブラボウズとは縁も所縁もないが、一部で混同されるワックス系の「取引禁止魚」2種も併せて解説する。

バラムツ
スズキ目クロタチカマス科 Ruvettus pretiosus
国内の分布:北海道太平洋沖・福島県南部~土佐湾の太平洋沖・兵庫県浜坂・東シナ海・九州~パラオ海嶺
体側鱗の先端が鋭く尖り、バラの棘を思わせることが和名の由来とされる。身肉に多量に含有するワックスと鰾がないこと、更にアブラソコムツ同様の特殊な皮膚構造により、深海から表層まで高速移動する事ができる。
日中は水深400~500mを遊泳。朝夕はやや浅みに移動し、夜間は100m以浅まで浮上し定置網に大量に入る事も。2mにもなる深海巨魚。
アブラソコムツとの識別は

  1. 体側鱗は骨状の棘を有す
  2. 側線は波打たない
  3. 尾柄部に隆起線が無い
  4. 腹部正中線に骨質隆起線を有す

アブラソコムツ
スズキ目クロタチカマス科 Lepidocybium flavobrunneum
国内の分布:相模湾~土佐湾の太平洋側。
大きな鱗の周囲を小さな有孔管状鱗が網状に取り巻く特殊構造の鱗とバラムツ同様多量に含有するワックス、鰾を持たないことで深海から表層まで高速移動できる。
体表は紙やすりの様にざらつき、側線は著しく波打つ。日中は500~600mを遊泳。夜間はバラムツ同様、上層に浮上する。駿河湾でサットウ。アブラボウと呼ぶ地域がありアブラボウズと混同される原因に。
バラムツとの識別は

  1. 体側鱗は大きな鱗の周囲を小さな有孔管状鱗が網状に取り巻く
  2. 側線は著しく波打つ
  3. 尾柄部中央に1隆起線、後半部は上下各1本の拭く隆起線を有す
  4. 腹部正中線に骨質隆起線は無い

昭和の時代。テレビ放映をきっかけに、平塚からバラムツ専門の乗合が出た。平成の初め頃には静岡県由比港にも乗合船が登場するが食に難があるため、深海釣りのジャンルとしては何れも長くは続かなかった。
2種は同科に属する近似種であり、体の仕組や生態もよく似ている。ゲームフィッシングが盛んだった頃、駿河湾の夜釣りでは2種が混獲されるケースは珍しくなかったが、日中の深海釣りでは同ポイントで両種が揃って姿を見せる場面には遭遇していない。

筆者とバラムツの出逢いは80年代終盤の平塚沖。某誌企画で仕立船バラムツゲームに挑戦。同乗者共々水深400mからの手巻スタンディングファイトで十数kgを仕留めて写真を撮り合おうとした際、互いの腕がプルプル震えてしまい中々ピントが合わなかったという笑い話が。

更にこの魚を持ち帰って刺身にし「一人3枚」限定で釣りをしない友人数名と味(毒!?)見を敢行。ワックス質の脂から刺身のルックスは普通の魚と異なり、安物の食品サンプルさながらなのテカリ具合。さすがに良心の呵責があって同じテーブルに静岡県石廊崎で釣って来たアコウダイも並べたが…仲間の箸はバラムツに集中。「もっと喰わせろ」の言葉に本当の事も言えず、苦笑いした経験が。
要は知らずに少量を食べれば「結構旨い」のだ。最近はさすがに聞かなくなったが、以前は食品会社が冷凍庫に大量に保管し摘発なるニュースも時折目にした。

当時平塚で聞いた話。乗合船があった頃、肛門科の医師が毎週の様に通いバラムツを持ち帰る。曰く、切れ痔の患者に一日一切れを食べさせて潤滑油の役目をさせているとか。今では考えられないが、大らかな時代だった?

アブラソコムツとの遭遇は93年2月、千葉県乙浜沖水深1,000mの宙層500m。ベニアコウ釣りの際にアブラボウズを狙ったスルメ半割に飛び付いて貴重な一流しをパーにした25kg。その後の対面も駿河湾夜釣りを除くと全てベニアコウ釣り。筆者にはバラムツ以上の厄介者だ。
俗称の「アブラボウ」はこの魚の特徴を良く表している一方で「アブラボウズ」との混乱を招き易くバラムツ類とアブラボウズが一緒くたにされる原因のひとつでもある。10年程前に誤って市場に出た本種を「アブラボウ」の名からアブラボウズと誤認した料理店が購入して客に提供、下痢症状が出て営業停止のニュースもあった。「アブラボウズ」がメジャーとなった現在、関係各位はより一層の注意が必要だろう。