alphatackle BLOG

深海研究所 Part 4 アラ



第4話 アラ
根掛りの如く踏ん張る魚を、ドラグをジワジワと締め上げ、海底から引き剥がす。ここが最初の山場にして「本命の証し」。激しい抵抗は中層まで。観念したアラが浮き始めれば、程なく細かな泡が弾ける海面に太鼓腹が飛び出す「クライマックスシーン」がやってくる。



アラの釣場
本種は全国各地の広範囲に分布。近年はスロージギング船も増えているが、本編ではエサ釣りで数kg以上の大型狙う釣船がある地域を紹介。

青森県風合瀬~白神沖
新潟県佐渡沖
茨城県波崎~千葉県銚子沖
千葉県外房沖
千葉県南房沖
静岡県東~南伊豆沖(稲取沖・白浜沖・爪木崎沖・神子元沖・石廊崎沖・子浦沖)
駿河湾(石花海周辺)
遠州灘(静岡~愛知県)
和歌山県白浜沖
京都府丹後半島沖


タックルと仕掛
現在若齢個体を専門で根うケースは稀だが、その場合のタックルと仕掛は別項オニカサゴ(標準和名イズカサゴ)に順ずるので除き、本項では数~10kg級をメインに据える「大アラ用」を紹介。

使用錘150~200号(佐渡沖・波崎~銚子沖・丹後半島沖など)
錘負荷MAX250号表記のアカムツ用・中深場用・青物用。

アルファタックル適合モデル
ディープインパクト カイザーT
ディープオデッセイ モデルT
ディープオデッセイ アカムツ220
HB アカムツ200・230

使用錘250号(外房勝浦沖・南伊豆石廊崎沖など)
錘負荷MAX300号表記の中深場用・ライト深場用・青物用。
アルファタックル適合モデル
ディープインパクト ライト220
ディープオデッセイ モデルTT

リール…「海底で踏ん張る大アラを引き剥がす」パワーは必須。軽量錘で比較的浅めを釣る船ではPE6号300mキャパシティ(3000番、500番)推奨や指定の船もあるが、通常PE6号500m以上のラインキャパシティを持つ中型電動リール(4000~6000番、750~800番)のセレクトが基本となる。

仕掛…船宿や釣場により胴突、片天、片天+胴突併用型の3パターンがあるが、手返しに難のある併用型は近年減少傾向。
胴突仕掛は3本バリが標準。ハリス10~12号1m、幹糸18~20号1.8m、捨て糸10号1mが基本パターンだが、地域によりハリス20号や捨て糸無し(下端親子サルカンにフックでオモリ直結)を指示する船も。鈎はムツ19~20号、ホタ17~18号。オキメバル仕掛の下に胴突1本を連結する変則パターンも。

「活きイカ泳がせ」の場合は1本バリでOK。鈎は下鈎がメインで大きく、上鈎はエサのキープを主目的に小振りとする「変則親孫式」に配し、下鈎はロウト付近にハリ先が外を向く様に打ち、上鈎はヤリイカ・ケンサキイカでは胴の先端を軟甲(いわゆる骨)に触れないようにエンペラと平行に刺し、スルメイカでは胴先端横のエンペラを縦方向に刺し通す。サバやマイワシは1本鈎の上顎掛けとする。尚20kg以上のイシナギが混じる釣場では鈎やハリス号数アップも考慮する。
片天仕掛は全長2mの吹き流し2本バリ。言わばオニカサゴ用のパワーアップバージョンで、ハリスや鈎号数は胴突仕掛に準ずる。
また大アラポイントイコール「ツノザメの巣窟」のケースが殆ど。一日20尾以上が鈎掛りするケースもあり、替鈎やハリスは充分に持参したい。
仕掛上端にはヨリトリ器具。250号錘使用の深場ではフジワラ「深海用リングSS」など、 軽量錘や小型リール使用ポイントではスイベル連結式「5連ベアリングスイベル6」など小振りのセレクトがベター。 

釣場の海底は比較的平坦な砂泥底や起伏の少ない根が中心(一部荒根もあり)だが、サメ禍による錘ロストも少なからず。特に船宿の指定がない場合は海底に残っても環境に負担を掛けない鉄製のフジワラ「ワンダーⅠ」使用を推奨する。 ただし「船宿指定の錘を使用する」という事も付け加えておきたい。

集魚ギミック…ツノザメの多さゆえに発光体使用を禁止する船長もあるが、基本的には有効なギミック。使用OKの船や地域ではサメの動向を見極めつつ、ルミカ「輝泡」や「ビット」、ミヤエポック「フラッシュカプセルLED-S」等を積極的に活用する。
今やあらゆる深海ターゲットに使用されるヤマシタ「マシュマロボールL」は鈎チモトから数cmの位置に配し、深海バケ使用の際はカラーのリンクが大前提。ニッコー化成「激臭匂い玉7Φ」一粒を鈎に刺し通すのも有効だ。
深海バケ…身エサ使用時は「フジッシャームツ毛鈎ホタ18号」がお勧め。紫、橙、緑の鉄板カラー3色に白(蛍ムラ)、茶、黒など各色持参、状況に応じて使い分ける。青森風合瀬など北の海域では紅、ピンク、赤紫などの「赤系」も忘れずに。

エサ…短冊エサはイカの縦方向カット短冊(スリット入り)、サンマ半身の斜め半割、ソウダガツオやサバ、サーモン皮など。アピール度とユメカサゴなどの「小型魚避け」を意識した長さ15~20cm(以上)と大振りが基本。
但しツノザメが極端に多い場合は敢えてサイズを小振りにする事でサメのアプローチを抑える方法もあり。
デッドベイト1尾掛は十数cm~20cm程度のマイワシ(下顎から上顎に刺し通す)や 筒イカ類(胴先端付近をエサ持ちを考慮して軟甲を貫く縦方向)など。
活エサはイカやイワシ、小サバ等。「最高のエサ」は活ヤリイカ、若しくはケンサキイカの一杯掛けでスルメイカはやや喰いが落ちる傾向。前述仕掛の項の要領で弱らせないように手早く鈎掛けするのが肝心だ。

その他のギミック

サメ被害軽減装置
ツノザメとの我慢比べとも言えるこの釣りの強い味方がサメ被害軽減装置。サメ類が捕食に使う鼻先の電気器官「ロレンチニ瓶」に作用する「海園」は海底のサメアプローチ軽減(100%回避ではない)効果も確認済み。仕掛上部に最初から接続する「Ver.2イカ直結用」をセレクトする。
※「海園」をより効果的に使用するための注意点
海水に浸かっている間だけ電流を発生(約100時間)する海園は複数回の使用が可能だが、効果的に使用するために下記の点に留意したい。

1.使用後は必ずぬるま湯での洗浄&乾燥を行う(乾燥材を入れ保管すると更に良い)
2.出力ワイヤーの先端に錆が出ると効果半減。乾燥後CRC等を塗布して錆を抑える
3.錆びが出た場合は先端部分を切り落とし、出力ワイヤーの皮膜を1cm程度剥ぐ(炙り溶かす)
直結タイプでは保管時に付属スイベルとセンサー電極が接触しないよう注意(通電し電池を消耗する)
磁石版
基本鈎数が少ないので「必需品」とは言えないが、取込時や航行時の仕掛保持にあれば便利。5本用などの短い物でOK。



実釣テクニック

アラは真っ先に鼻先に落ちてきたエサに反応し、仕掛が着底した瞬間に喰うケースが非常に多い。複数の個体が存在する場合「大型から順」の傾向が顕著。活エサの場合は「弱らせないようにゆっくり下す」も一理あるが、ことアラに関しては「スピード優先」と考える。
これでは投入が「順番」の場合は最初から勝負が決まっている様に思えるが、実際は仕掛が落ちた場所に必ずアラがいるとは限らず、どの釣座にヒットするかは「アラのみぞ知る」。ゆえに着底以降も如何に「エサが落ちてきた」状態を数多く演出するか、が肝心となる。

大アラの棚は海底から2~3m位上。ここにエサをキープすべく、マメに底ダチを取り直してアタリを待つ。
胴突仕掛は捨て糸の長さを調整すれば「底トントン」で棚を攻める事が可能。錘が海底を叩く事で身エサにイレギュラーなアクションが加わり、アピールにもなる。
片天仕掛2mハリスの場合、オモリの位置で言うなら潮が効いていれば海底から2m、潮が効かないときはやや高めの3mに設定。「やや上」を意識し、錘を海底から離す片天仕掛では海底の変化を察知するのが胴突よりも遅くなる点は否めない。海底の起伏にもよるが胴突仕掛以上に「棚キープ」に留意、頻繁に底を取り直す事、エサの動きに変化を与える事を意識して臨む。

時に10mも巻き上げて再度着底させる誘いは新しい場所に仕掛が落ちる、エサに大きなアクションを与える点では効果的。積極的に勧める船がある半面、潮具合や乗船人数により「オマツリを誘発する」として禁止する船もある。予め確認が必要。但し活エサ使用時は必要以上に大きな動きを頻繁に与える事がエサを弱らせる要因になりかねず、基本「棚の取り直し程度」に終始する。

新潟間瀬港「光海丸」の釣法
近年初夏~晩秋に大型アラを釣らせる船として関東・甲信越地区を中心に注目を集める新潟県間瀬港「光海丸」の釣法は「基本形」とは若干異なる。
船長曰く同地の大アラを「喰わせる」コツは
①真っ先に仕掛を着底させる
②1~2mの棚取り以降、誘いや棚の取り直しなどの操作は一切せずに「放置」するの2点。

「真っ先に着底」は全国共通のテクニックだが、着底直後に喰わない場合は頻繁な底の取り直しや数~10m巻き上げて再度落とすなど「動のアピール」が各地のアラ釣りに共通する、言わばセオリー。
「放置プレイ推奨」は異例と言わざるを得ないが、光海丸がこのスタイルで卓越した実績を積み上げてきたのは紛う事なき事実。釣行時全てのアラがこのスタイルでヒットしており、疑う余地はない。
ツノザメのアプローチがほぼ皆無で仕掛や推奨エサも他地区とは異なる(ワンポイントの項で紹介)が、何れにせよ「郷に入らば郷に従え」の真摯な姿勢が間瀬沖の大アラと対峙する近道と言える。

アタリ~取込み
アタリは激しく竿先を揺さぶり、高い棚のエサに飛び付いた場合は一気にロッドを絞り込むケースもある。基本的に向うアワセだが「アタリだけで掛らない」「喰いが浅く鈎外れし易い」などの渋り時にはヒラメやオニカサゴ宜しく「ロッドをスーッと誘い上げて乗せる」イメージで行うのもアリ。但し、「パチン!」とロッドを跳ね上げる様な動作は厳禁。ハリが口腔内から強引に引っ張り出され、ネムリ鈎の「鈎が口腔内をから滑り出て口元に掛る」特性を妨げ、アワセ時のすっぽ抜けや巻上初期の鈎外れに繋がるリスクとなるからだ。
一呼吸置いてリーリング開始。平坦な海底なら慌てる事はないが、岩礁底では根掛り回避のため早々に底を切る必要がある。

派手なアタリの後、本命か否かを判断する基準は「海底での踏ん張り」。巻き始めに根掛りした様に底から離れなければ(イシナギの場合もあるが)大型本命の期待大だ。海底で踏ん張る魚をハリス強度と相談しつつ、ジワジワとドラグを締めて引き剥がす事がこの釣り最大のポイント。海底形状やハリス号数にもよるが、千載一遇のチャンスを確実にモノにすべく、底を離すまでは慎重に対処したい。

以降の巻上げはドラグを充分調整し中速程度で緩急を付けず、を心掛ける。底層では激しく抵抗するが、水深の半分を過ぎれば大抵は体内のガスが膨張して大人しくなり(浅めのポイントでは上層まで激しい抵抗を見せる個体もあり)、浮き始める。こうなればほぼ勝利は確定。程なく海面下に揺らめいた白い影が見る間に金茶色へと変わり、太鼓腹が海面に飛び出す「クライマックスシーン」が待っている。

太平洋側では多くの釣場でツノザメの猛攻に閉口する事が少なからずの釣りだが、サメを嫌ったらアラは釣れない。時期や場所によっては「何十本ものツノザメの中から本命1本を拾い出す」位の覚悟が必要。 「隣がサメを釣る隙にアラを喰わせろ」の某船長コメントはジョークのようだが、実に的を射ている。
前述の通り海面近くまで巻き上げれば、例え鈎が外れても体内のガスが膨張して浮上する。落ち着いて大口にギャフを打ち込めばゲームセットだ。
むしろ注意すべきは取り込み後。鰓蓋に複数有す剣状棘は海水でふやけた手指には剃刀並みの切れ味となる。大小にかかわらず、クーラーに収める前にニッパー等で切り落とすのが無難だ。因みに背鰭の棘に有毒の報告はないが、かつて小アラの背鰭を誤って指先に刺した際には短時間ながら強い痛みと動悸を感じた事が。何れにせよ「触らぬ棘に祟りなし」。魚体の大小や生死にかかわらず、本種の取扱いには充分注意したい。

好条件下では日に複数の大アラを仕留める幸運も有り得るが基本は「数よりも型」、ボウズ覚悟の一発勝負。特に大型が幻とも言われる今日日、例え何本も釣れる場面に遭遇しても「明日のために」自制する位の余裕(痩せ我慢!?)を持って臨みたい釣りでもある。


アラ釣りに役立つ!? ディープマスターのワンポイント

特殊!?新潟県間瀬沖の仕掛とエサ
釣法の項で紹介した新潟県間瀬港「光海丸」は釣法も独特だが、仕掛やエサも他所とは若干異なる。
胴突4本仕掛はハリス20号55cm、幹糸24号1m。この太ハリスにウスメバルやマゾイが普通に喰い付くのは驚きであり、如何に同地が場荒れしていないかの証明でもある。

鈎は船長推奨の「KINRYU太地ホタ17号赤」。後述する冷凍マイワシの顎を壊さない軸径と大アラのパワーとハリス20号に折れず、伸されずの強度という相反する要素を追求。各社の様々な形状&サイズの深海バリを試して辿り着いたと言う。ハリスにはヤマシタの「マシュマロボールL夜光イエロー」か「20倍ビーズ5」を配す。上端ヨリトリ器具は「より早く着底させる」を意識してベアリングスナップ程度とするのが光海丸流。水中灯は「輝泡」など小型のものをセレクト、ブランコ式に配す。オモリは200号。捨て糸を介さず、下端の親子サルカンにフックで直結と、他地区とはかなり異なる設定だ。
付けエサは船で購入可能の冷凍マイワシ(全長16~18cm)が最も実績大。鈎掛けは下顎から上顎に刺し通すが。「2番手」はサバ短冊のチョン掛けで、各地で「アラ釣りの鉄板」とされるイカエサは短冊、一杯掛け共に「殆ど実績なし」。釣法も含めて間瀬沖はアラ釣りのセオリーが通用しない、ある意味特異な釣場なのだ。

一筋縄では行かない。気難しくも気紛れな「幻魚」のエサ選び
今や地域によっては数kg以上の個体は幻扱のアラ。ちょっとした水温の変化や潮具合で全く口を使わない反面、スイッチが入るとエサの種類も気にせず、その名の通り「アラ喰い」する事もある。一筋縄ではキャッチできない何とも気難しく、同時に気紛れな魚なのだ。

ある年の春、千葉県勝浦沖での出来事。本種の「特効エサ」と言える活ヤリイカは「資源が枯渇する」と禁じ手にする船長も有る程、アラは目が無いエサの筈なのだが。この日アラ専門仕立メンバーの一人が前日午後船に乗船、4杯の活ヤリを持参し出船前から勝負は決したかに見えた。とはいえ活イカに釣れるのは順当過ぎて記事には面白くないなぁ…と思いつつスタートすれば、船中初物4.6kgは筆者のサバ短冊にヒット。一方活ヤリイカは全てサメの餌食で終了しメンバーが引っ張り出したのはスーパーで購入した半ば干からびた塩サバ。活ヤリとは相当のギャップだが、この日のビッグワン9.5kgが選んだのはこのエサ。こうして前日からのメンバーの苦労も、「活ヤリイカで釣れたら直球過ぎて面白くない」筆者の想いも、幻魚の気紛れで見事に報われる。こんな事があるから「エサは複数持参」が理想なのだ。

胴突仕掛は2本目の鈎に一番良いエサを掛けろ!

これは筆者若かりし頃、大アラ釣りに通った千葉県勝浦・串浜の名船長の言葉。曰く、胴突仕掛のアラ釣りでは下から2本目の鈎が最も本命が掛る確立が高いので、活ヤリイカなど数の限られたエサはここに掛けろ、というもの。下から2本目の鈎位置は、基本仕掛の底トントンの設定で、海底から3m程度。片天仕掛での大アラ狙いの棚(海底から3m程度)と、見事に一致する。多くの地域でアラは短冊も含めイカエサを好む傾向が見られるため、オール短冊エサの場合も3本鈎の上下はサバやソウダ、センターにイカを配するのが「ディープマスター流」基本設定だ。

巻上開始時に「アラとサメを見分ける」ポイントは
竿先を激しく叩くアタリの時点ではアラと「税金」のツノザメを見分けることは正直困難。比較するとサメのアタリは「やや緩慢でメリハリが無く、突っ込み後に竿先を煽り、フワ付く事がある」のに対し、アラは「より明確でキレ(メリハリ)があり、突っ込み後に竿先を煽らない」のだが、これは相応の回数を見比べないと判り難い部分。両者の底近くでの抵抗も酷似しているが、初期段階で唯一見分けることが可能(と筆者が思っている)ポイントはリーリング開始時、ある程度のサイズのアラは根掛りを思わせる海底での「一踏ん張り」が有るのに対し、ツノザメはかなりの大型も簡単に底を離れてしまう点。
「アタリがあったのに根掛りだよ!」と思ったら、それはビッグなアラかもしれない。ハリス強度と相談しつつ、先ずは海底から引き剥がそう。但しイシナギも同様に海底で踏ん張るため、本命と思っていたら姿を見て溜息…の場合もあるので念のため。

「ホタ鈎」はアラ専用鈎!?
一時は生産工場がなくなり市場から姿を消したが、特殊形状で鋭い歯によるチモト切れと、口周りの脆いターゲットの外れを大幅軽減する機能が認められ、現在複数メーカーから再販されている「ホタ鈎」。
筆者がこの鈎と出逢ったのは1990年の神津島。漁師がムツ漁に使う18号を漁協で購入。その後特注生産~廃番となるが、特注品にフジッシャー加工を依頼した事で藤井商会が「16号」をリリース。「アカムツがバレ難い」が口コミで広まり他社が追従、現在に至るのだが。

「ホタ」とは関西でアラ、奄美大島ではアオダイの地方名。これを踏まえると「ホタ鈎」は「アラ専用鈎」と言う事にもなる。アラとアオダイは科が異なる「縁もゆかりもない」魚だが、両者には「アタリ後のひと踏ん張りが強烈」という共通点がある。そんな背景を踏まえてタックルをセレクトするのも「楽しみ」の内と感じる。
比較的平坦な海底で根掛りが少ない綾里沖ではアコウダイ同様に「アタリがあったら幹糸間隔分を順次送り込んで仕掛を這わせ」追い喰いを促す。故にハリス号数は12~14号と釜石沖より太めでもOKだ。
一方釜石沖は糸を送れば根掛り必至の「ガッチガチ」の沈船故、推奨ハリスは8(~10)号と一回り細め。着底後すかさず糸フケを除き、3m底を切ってアタリを待つ。竿先を注視してオモリが着底したら素早く3m切って待ち、アタったら3m巻き上げて追い食いを待つ。追い食いしたら更に3m巻き…と上へ、上へのアプローチ。「これはデカい」と確信したら単発でも早々に巻き上げるのがビッグワンを手中に収める最善策だ。

仕掛で変わるアプローチと「二兎を追う者、一兎も得ず」
千葉県勝浦沖のアラは胴突3本鈎仕掛が基本だが、オニカサゴが同棲するポイントで潮流が素直な際は片天吹き流しの2本鈎も「アリ」。
胴突仕掛のアプローチは糸フケを除いて「底トントン」と「センターのハリがメインなので一番良い餌を付ける」が基本。海底の変化に対応し易いメリットがある。対する天秤仕掛は「海底を2~3m切って流す」がアラ狙いの基本ゆえ、錘が浮いているので海底の変化が把握し難く、胴突よりも頻繁な棚取りが必須となる。
同じ天秤仕掛でも鬼カサゴは「底トントン」のアプローチが有利。双方を狙える200mラインでは大アラ一本で意地を貫くか、底を叩いて土産を確保するかは各自のスタンス次第だが、最も良くないのは中途半端に底を切るなど、狙いを絞り切れずに迷う事。喰いの立つ時間はアラも鬼カサゴも同じで、かつ短い。高棚でアラか、底叩きで鬼か。「二兎を追う者、一兎も得ず」と心得て、いずれか一方に狙いを絞るのが正解なのだ。
因みに両狙いポイントでの鈎はオニカサゴの喰いが良いに小型にして、大アラのパワーにも耐える強度を有する藤井商会「フジッシャー毛鈎改造延縄真鯛12号」やKINRYU「柄長鈎15号」など、いわゆる「鯛縄型」をセレクトする。

鰓蓋棘は剃刀並。アラは「取扱注意」の危ない奴!?
体重数kg以上のいわゆる「大アラ」は精悍な顔付きと貫禄のボディ、深海ターゲット中、特に刺身はトップクラスの(と筆者が信じる)超美味にして、易々とは手にできない垂涎のターゲットだが、一方では取り込み後や調理時は取扱い要注意な「危ない奴」の一面も。
鰓蓋周辺に有す複数の棘は剣状の先端部分が「剥き出し」となっており、水にふやけた手指には「剃刀並み」の切れ味を見せる。記念撮影はじめ船上での取扱いや調理の際には充分な注意が必要だ。クーラーに収める際か調理前にニッパーで鰓蓋棘の先端を切り落せば、誤って触れても深手を負わずに済む。
因みに背鰭の棘に有毒の報告はないが、かつて「小アラ」の背鰭を誤って指先に刺した際には短時間ながら強い痛みと動悸が感じられた。何れにせよ「触らぬ棘に祟りなし」。アラの取扱いには充分注意しよう。(画像参照)

アラは氷温で数日寝かせろ!
アラは筆者がトップランクの美味と公言してはばからない超高級魚だが、時に「硬くてゴムの様」「旨味が全く無い」などの酷評を聞く事が。しかし、よくよく聞けば何れも「熟成期間」を置かずに即日刺身にして食した際の評価。身肉の特性を知らぬために起きた、いわば悲劇(喜劇?)の類なのだ。
本種やハタ類など、極めて身の締りが良い白身魚は血抜きして鰓腸のみ除き(鱗は引かない)、腹腔内にペーパータオルを丸めて詰め込んでラッピング、チルド庫で数日間熟成させる事で本来の旨味を引き出す事が叶う。
この「熟成」は身肉に雑菌が付着するのを極力防ぐ意味から可能な限り丸のまま、氷温(0℃前後)を維持して保管するのが理想。筆者は専用のチルド冷蔵庫を使用、調理時以外は極力開閉を避け、温度変化を最小限に抑える配慮をする。一般の家庭用冷蔵庫の場合はドアの開閉頻度の高さから内部温度の変動が大きく(例えチルド庫でも)熟成期間は早まる傾向なので要注意。専用チルド庫と同期間では折角の高級食材が傷んでしまう可能性もある。



アラ料理

本種は深海ターゲット中、特に刺身では最上級の味覚を持つ魚のひとつと考えるが、かつて「アラを釣って刺身にしたが、硬いだけで美味くなかった」「ゴムを噛んでいるように硬くて味が無かった」なる声を耳にし、詳しく聞けば「釣ったその日に食べた」と言う。これは本種の特性を理解していないための典型的「失敗談」であり、勿体無い以外の何者でもない。

マハタやクエ同様にともすれば身の締りが「良過ぎる」本種故、身を熟成させて旨味を引き出すのがセオリー。鱗は引かずに鰓腸のみ除いて腹腔内にペーパータオルの「アンコ」を詰め、全体をラップで包む。小型でも3日、大型なら数日間、可能な限り「丸のまま」チルド庫(氷温)で熟成させて旨味を引き出す。丸魚のまま寝かすのは切り口が多い程外気に触れる面積も広くなり、雑菌が付着し易くなるからだ。

本種はkg辺り1万とも言われ、おいそれとは手が出ない高級魚。近年は代用品としてルックスの似たニュージーランド産のハプカ(和名ミナミオオスズキ・スズキ目イシナギ科)が店頭に並び、価格は国産の1/3~1/5程度とお手頃だが、お味の方も「それなり」なのは否めない所。
産卵後の大型は痩せてやや味が落ちる傾向だが、中小型は年間通じて「高レベル」を維持する。
熟成後の調理はゴタゴタと「小細工」はせず、素材の旨味をストレートに堪能したい。
刺身は薄造り。ワサビ醤油、ポン酢はお好み次第。頭やカマは塩焼き。中骨は潮汁。鍋(水炊き)やシャブシャブも極上。もちろん〆は雑炊。「冷やしチリ」も良い。若魚でも身肉に程よく脂肪が乗り、いわゆる「コアラ」も煮付けや塩焼きで美味だ。本項では刺身を使った飯物と刺身の際に引いた皮の料理を紹介する。

アラ茶漬け
刺身の残りを利用した一品は簡単にして美味。
材料:刺身適量/荒塩/昆布または粉末昆布出汁/海苔/山葵/白飯


調理

  1. 刺身にやや強めに塩を打って一晩置き、余分な水分を除く。
  2. 背骨など「アラの粗」と昆布で出汁を取る。
  3. 器に飯を盛り、1を好みの量並べる。
  4. 熱々の出汁を注ぎ、蓋をして1分程蒸らし、海苔と山葵を添えて食す。

宇和島風アラ飯
本来はマダイを使う高級TKG(卵掛けご飯)のアレンジ版。「超高級TKG」は深海釣師の特権だ。
材料:刺身適量/鶏卵/醤油/味醂/薬味(白ゴマ、大葉、ミョウガ、アサツキなど)/白飯


調理

  1. 鶏卵(全卵)を溶き、醤油と味醂を1:1で合わせた割り醤油(麺つゆでも可)を合わせて好みの味付けをする。刺身と鶏卵のへの味付を考慮し、やや濃い目がお勧め。
  2. 卵液に適量の刺身を浸して数分置き、味が浸みたら好みの薬味を加える。
  3. 器に飯を盛り2を掛け、混ぜて食す。

アラ皮の酢の物
皮のプリプリとした食感と旨みが秀逸。通称「アラ」のハタ類も同様に美味。
材料:皮(刺身の際に引いた物)/キュウリ/塩ワカメ/根生姜/合わせ酢(すし酢、三杯酢、土佐酢など)/塩


調理

  1. 刺身の際に引いた皮はサッと湯がいて冷水に放ち、粗熱を除きながら表面に残った鱗、裏面の身肉を洗い落す。
  2. 皮の水分を拭き取り、幅5~6mm、長さ4cm程度の小口に切る。
  3. 薄く小口にスライスしたキュウリに軽く塩を振って数分置いた後、水分を絞る。
  4. 塩ワカメは塩抜き後にサッと湯通しし、食べ易いサイズに切っておく。
  5. 2~4を土佐酢、三杯酢など好みの合わせ酢で和え、小鉢に盛る。
  6. 針生姜(根生姜の皮を剝き、薄くスライスして針状に刻み、真水でさらした物)を飾って供す。


アラという魚

アラ
スズキ目ハタ科 Nip hon spinosus
国内の分布:北海道~九州南岸の太平洋沿岸、青森県~九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海(稀)、東シナ海大陸棚縁辺~斜面域
一属一種。背鰭棘条13本と前鰓蓋隅の強大な1棘でハタ科他属との識別は容易。

関西や九州ではクエやヤイトハタなどの大型ハタ類を「アラ」と総称するため混同されるケースが未だにあるが、標準和名「アラ」は目と科は同じ(スズキ目ハタ科)でも「属」が異なる全く別の魚。
前出のハタ類では数十kgの大物も珍しくないが、標準和名「アラ」は1m、十数kgが最大級。現在では5kgを超えれば充分大物と言える。
尖った口先から「キツネ」、スズキに似た外観から「沖スズキ」の他、「ホタ」(関西)「イカケ」(中国地方)などの地方名がある。
水深100~150m前後の砂泥底、砂礫底に多い若齢個体が体側に有する明瞭な暗褐色縦帯は成長とともに不明瞭となり、住処を水深200~350mとやや深みに移した老成魚ではほぼ消失する。
主鰓蓋骨(鰓蓋)に複数有する棘の先端は薄く鋭い剣状。手指に深手を負うリスクがあるので、釣り上げた際はもちろん、死魚を扱う際でも注意が必要。
海底付近での抵抗は激しいが、水圧の変化には弱い。宙層まで上げると体内のガスが膨張。最後は「白提灯」となり、海面に太鼓腹を浮かべる。